Vol.171
大分県・ゆふいん塚原温泉 火口乃泉(かこうのいずみ)
広島県 K さん
桜満開の4月、妻と孫二人を連れて、私のお気に入りの塚原温泉に行く。少年時代に虫取りに行った時のような、期待と興奮で心を弾ませて、未舗装の山道を車で登って行く。
山麓に、簡素だが懐かしい木造の小屋が数軒隠れるように建っている。 塚原温泉『火口乃泉』である。今回で3回目の入湯。昨年、初めて入湯して、私の今までの温泉観を変えさせた強烈な湯だ。以後、初恋の人に出会ったかのように、会いに通っている。
早速入湯。5、6人も入れば満室と言う小さな浴室で、檜の板張りの床に、木の湯舟、高い窓、壁は年代を重ねた温泉の成分で薄茶色に光っている。天候条件によって変化する自然まかせの湯は、透明になったり、黄緑色になったり表情が豊かで、陽が反射して美しく輝いて見える。ゆっくりと浸かり、成分を身体に染み込ませる。湯口から湯を両手で汲んで口に含む。酸味の強い刺激的な味だ。
それもそのはずだ。PH1.4の強酸性で、鉄イオン含有量は、日本一だそうだ。
12世紀、源為朝が山で狩りをしていて、傷ついた鹿が湯溜まりに浸かっているのを見て、発見されたと伝えられている。
東の玉川、西の塚原と言われている硫酸泉で、湯治向きの温泉である。休憩所はあるが宿泊施設は無いので、遠方からキャンピングカーで来る人もいる。
男、女別の野趣あふれる野天風呂、ゆっくりと入れる家族風呂もある。
温泉を愛でるように、ゆっくりと入浴を楽しんだ。標高1045mの伽藍岳(別名硫黄山)の麓に遥か昔から湧き出ている古湯である。
入浴後、受付の人に届け出て、火口の見学をする。温泉館の前から続く山道を10分程登ると、目の前に別世界が開けた。灰色の火山岩が無造作に転がっていて、山の斜面から上る噴煙、そして硫黄臭。火口の坊主地獄が、無気味にゴボッゴボッと音を立て、蒸気が立ち上がっていて、まるで原始の世界にタイムスリップした気分だ。今にも恐竜が現れそうな雰囲気だ。髪の少ない後ろ髪を引かれながら、究極の温泉卵(火口の噴気で20時間蒸し上げた)を手に、秘湯を後にした。

